提言で終わらぬまちづくりとは?
 今週のゲストは、くろしお地域研究所研究員の松田高政さんです。今日のテーマは「提言で終わらぬまちづくりとは?」でお話をお聞きします。
 従来市町村は、国や県からの補助事業や、支援事業を獲得するために、各省庁の「ひも付き」コンサル会社に「まちづくり計画」などを依頼する事例が多くあったようでした。「全国一律の」事業計画は「絵空事が」多く失敗事例も多くありました。
かつて「リゾート法」(1987年)がありました。適用第1号が宮崎のフェニックスリゾートでありましたが、倒産してしまいました。多くのリゾート計画は何故破綻したのでしょうか?
 リゾート法の施行は私が会社へ入る前のことですので、「後から考えて」ということになります。
 地域にないものを無理やり持ってきた。またはお金をかけすぎたことだと思います。私はとてもお金がかかった反面教師代だと思って、逆の「地域にあるものを、なるべくお金をかけずに活かして楽しみをつくる」ことにしています。
 各省庁ご用達のコンサル会社は、本当にノウハウがあるのでしょうか?成功事例はあるのでしょうか?
 成功事例については知らないですね。
各省庁の息のかかったコンサルはその分野には精通しているため、知識や技術的なノウハウはあると思います。ただ、地域をよく知らず(地域の有形、無形の文化があります)に、地域の風土や今残っているものの価値や意味を知らずして、新しいことをやることはとても危険です。
松田高政さん
 私は地域を知らないコンサルが提言したことは成功することはないと思いますし、そもそもコンサルが落下傘式に地域に提言すること自体おこがましいとも思っています。本当に必要なノウハウは、「地域の人が自ら考え発案し行動するために、どういうやり方・進め方がいいかを助言し、結果が出るまで親身になって一緒に汗をかく姿勢」だと思います。
 コンサルは介護者であって、主体者は住民であると思います。

松田さんは、該当地域の住民の人たちと親しくなり、生活情報なども聞き出しているようです。それはご自身が「顧客」の立場になり、まちづくり計画を立案するからなのでしょうか ?
 仕事の時は気持ちは地元の住民になっています。まちの人が気付いていない街のよさはなんだろう。常に外からの視点で持っています。
生活情報を聞き出しているのは、地域の持っている力や人の持っている力を引出すためです。今やっていること「生活」を聞いて、自分にはないものに驚き、その良さやすごさを相手に分かってもらう。そして、これからの「生活」として、何をやりたいのか、どんな生き方をしたいのか自分で考えてやってもらう。一緒にやって、だめだったらまた考え再度やってみる。
評判がよければ自分のことのようにうれしくなって喜ぶ。まちづくりも子育てと一緒です。相手と対等な立場で、信頼関係やコミュニケーションが重要なんです。
 これから地域を良くしていこうというときに地域の生活がありますので、地域の暮らしを楽しみたいので、やはり自分1人1人に考えていただきたいと思います。
大方町蛸川地区の生活文化際
地域のあるもの探し(聞き取り)の様子です。
 
 その地域に「入れ込む」のは良いのでしょうが、その地域の人になりかわって提言したりするのはよろしくないと思いますね。みなが考え行動する「場」をこしらえたりはしますけれども。こちらが一生懸命しますと地域の人たちの主体性、まで奪いますので。そうやったら「気付く」のかが問題ですね。
 あまり入れ込んでしまえば、「土着」してその地域の人にならないといけないですね。
 そういう人もいますよ。森林の仕事を仁淀川上流域でしていまして、池川町に住まれてお茶の勉強をされている人もいます。だから、結局仕事が終われば行政の方や住民の方と仲良くなりますし、そこに住みたくなって、いつも嫁さんに「また始まった。結局仕事をくれる所だったらどこでも好きになるんでしょ」と言われますが、これは本当で、その土地や人を好きになってしまうんです。
 嫁さんにそのつどストップをかけられています。
 国や県からの補助金や支援策が削減され、市町村は自立出来るのでしょうか?
また市町村役場の職員も対応できるのでしょうか?
 これからは、国も県も市町村お金がありませんので、予算があまりかからない地域運営の方法を考えていく必要があります。役場職員の方も自分の人件費以外は予算ゼロで何ができるか、能力も重要ですが仕事づくりに対する姿勢が問われてくると思います。
国から降りてきた事業の事務をやって給料がもらえた時代は終わりです。自ら地域に出向いて行って仕事を作ってくるくらいの覚悟が必要だと思います。その点、高知県の地域支援企画員の方は、最先端の対応をされていると思います。

 視点を変えた質問です。最近は全国各地の地方都市は空洞化し衰退しています。「シャッター通り」などと言われています。
中心市街地の再生事業や、都市再生法なども国のメニューはありますが、「使い勝手」はあるのでしょうか?活用するのは結構めんどくさいように思われるのですが・・。
 愛媛県第2の都市新居浜市。中心街商店街は「シャッター通り」になっていました。
 いろんなメニューを見ましたが、実情が違う地域の課題をひとまとめにして事業やメニューを作っているので「使い勝手」がいいのは本当に少ないです。たまに自己負担額ゼロで何でも使っていいというすごいのがありますが、たいてい事業規模や予算規模が多かったり、申請や検査、報告に膨大な労力がかかります。
 基本的には自分達がやりたいことがまず先にあって、ちょうど使えるメニューがあるのであれば、面倒でも申請して、使わなくても良くなったお金は別の分野か貯金に回せばいいと思います。
 ただ、国の用意した使い勝手のあまり良くないメニューの枠に無理にはめ込んで事業をやるのは賛成できません。
 予算規模が大きいものは市町村の自己負担額も大きくなるので、贅沢になったり無駄が生じる危険性もあります。もし、市町村の自己負担額のみの予算で自分たちのやりたいことを自由にできるのであれば、めんどうな国の予算はもらわず単独ですべきだと思います。
 くろしお地域研究所では、地域の「あるもの探し」から始めると、以前番組ゲストで来られました吉田文彦さんから伺いました。松田さんはどのような方法手段で活用されていますでしょうか?
 私の仕事は基本的に地域のあるもの探しから始まります。これは、今では私の生き方にもなっています。「ないものねだり」は基本的に愚痴と言われるもので、必ずお金がかかりますが、あるもの探し・あるもの磨きは、自分で考え行動する住民自治で、地域にあるものを利用するのでほとんどお金がかかりません。
 あるものとは、3つあって、「一つがここにしかないもの」、これは地域の個性でありアイデンティティーにもなります。二つ目に「どこにでもあるもの」、川や山、田んぼに家庭菜園など田舎にはどこに行ってもありますが、とても大切なものです。
その大切さに気づいてほしいと思います。最後3つ目が、「困っているもの・余っているもの・捨てているもの」です。これは見方を変えたり、そのもの同士をつなぎ合わせることで、地域のマイナスがプラスにもなります。あるもの磨きは、それらをいかに組み合わせて、新たなものを築き上げて行くか考えることになります。
 これからの時代は本当の意味でのお金のない時代です。住民自治の時代であり、低所得・低経済成長の時代になってきたと思います。その点からも、かりにお金がなくとも、地域にあるものをいかに組み合わせて新しいものづくり・ことおこしに挑戦するかが、地域にとってもまた私自身の人生においても問われていると思います。
くろしお地域研究所ホームページ    http://www.kuroshio-net.jp/