人と家具との付き合い方もついて
 
 今週のゲストは家具職人の黄瀬隆行さんです。黄瀬さんは注文家具を主体に仕事をされています。今日のテーマは「人と家具との付き合い方について」です。
 家具は有史以来人とは深いつながりがありました。あるべき付き合い方についてお話をお聞きしたいと思います。
時折博物館などで、何百年も保存してされている家具を見ることがあります。それは特別な保存方法がされているのでしょうか?
 専門家ではないのではっきりとしたことはわかりかねます。ただ極端に気温、湿度の変化のない場所で保管されているとは思います。それと太陽光線を浴びないところで保存して置かれています。そのような条件でありましたら長い年月持つのだと思います。
 室戸市にある知人の老人保健施設。階段部に昔の古い家具が使用されています。木造主体の建物であるだけに、うまく調和しています。
 昔の人はよく桐のタンスには虫がわかないと言われています。木材のよって防虫効果があるのでしょうか?
 木のもつ成分で防虫効果のある木は桐や檜、ヒバ、やクスノキなどがあるようです。木材によっての防虫効果はあるのでしょうね。
 ただ、僕の不勉強ゆえくわしい成分などなにが効くかは解りかねます。
 最近では、外国産の木材を利用した家具も多いのでしょうか?また外国からの家具の輸入も多いのでしょうか?高知のホテルでも家具は東南アジアから輸入したような事例も聞きましたが・・・。
 ほとんど外国産の木材だと思います。もちろん中では国産にこだわって使ってらっしゃる方はいらっしゃいます。
僕はほぼ外国産の木を使っています。それは国内での家具用材向けの広葉樹の流通、供給が限られていて安定した供給ができていないのが原因の一つです。これは戦後の国策としての林業の政策が針葉樹一辺倒になったのと、もともと家具用材として向く硬い広葉樹は雑木として扱われていまして多くはパルプ用のチップなどに使われ、栗の木などは鉄道用の枕木に使われました。ですのでその後の植林などがおざなりになったせいではないかと思います。
黄瀬隆行
 僕が使う北米産(アメリカやカナダ)の木は植樹と伐採のサイクルがとてもうまくいっているようで、伐採より木が育つ割合が多いと聞いています。そういう木でしたら安心して使えますし環境(エコロジー)にもいいと思います。
 日本でもNPOなどの団体単位での活動で広葉樹を植樹する運動はありますが、やはり行政、国が積極的に動かないといけない問題だと思います。高知県でも森林環境税を導入して森林の環境保全に取り組む姿勢はあります。これがもっと発展して森林の保全の一環として針葉樹と広葉樹の混合林にしていってくれればと思いますね。
東南アジアや中国製の家具は多いでしょうね。手ごろな値段で買える家具はほぼ100%だといえます。国内のメーカーでも海外で生産して輸入販売する形は
家具にかぎらず製造業全般の傾向であることはかわりありません。
材料選びから注文家具づくりはスタートします。シーズンニング。
天板剥ぎあわせ工程です。
 人と家具とのつながりについて、「これは」という事例はございますか。ありましたらご紹介いただけますか?
 僕の体験としてではないのですが、建築家の故宮脇檀さんの著書でこんなエピソードがあります。
ある方から家の設計を頼まれて設計したときに同時に中の家具等も細かにデザインして提案したそうです。
しかし施主さんにこう言われたそうです。「たしかに家は設計した宮脇さんに属するかもしれないが、中の家具類などは私達に属するものでしょう?
 なにもかも設計されたらまるで宮脇さんの家に間借りしているみたいじゃないですか。置き家具たちは私達が時間をかけて集めていきたい。それはいずれ子供や孫へと伝えられる我が家の遺産になっていくものだと思う。もし引越しするときがきたら家は置き去りにするけど家具は私達と一緒に動いていくものというのが正しい形ではなくて?」
 この施主さんの言葉にヤラレター!と反省したそうです.
家具はそうそう買い換えるものではないです。進学、就職、結婚、引越しなどなど人生の節目に購入の機会があるでしょう。
 そのときにすこし背伸びして、長い目でこれはというものを選んでほしいですね
 阪神大震災などで家具の下敷きになり亡くなる方もいました。大地震などでは家具は危険物のように言われています。なにか良い防止策のようなものはあるのでしょうか?
1995年の阪神大震災多数の家具が転倒。死傷者が出ました。
ホームセンターで「転倒防止グッズ」を購入しましたが・・・
 これは近年大きく取り上げられていて、家具製作に関わるものとして真剣に取り組まなくてはいけない問題だと思います。
 一番問題視されているのは箪笥や食器棚のような奥行きのわりには背の高い家具が地震によるゆれで倒れることだと思います。
家具を金具などで壁や天井に固定することが最良と思います。また寝室などには背の高い家具は置かない、普段使う部屋などは背の低い家具にする。
 そういう工夫も大切だと思います。ただこれも自然の前では無力であることもあり、絶対安全だという保証はないです。
こんなことをいうと見も蓋もないかもしれませんが、僕自身、阪神淡路大震災の時に大阪に住んでいましたのでそう感じます。

 家具の手入れについて伺います。長持ちさせる工夫や、コツはあるのでしょうか?やってはいけない手入れの仕方などはあればアドバイスをお願いします。
 僕の作る家具、無垢の木を使った家具という前提でお話させていただきます。
 オイルフイニッシュという植物性のオイルを浸透させて表面に膜をはらないで自然の木の感触を楽しめる仕上げにしています。
 普段は綿などできるだけ化学繊維ではない布で乾拭きするので十分です。もしくは硬く水分を絞った布でふきあげます。
 時々オイルを塗ってあげると艶が深まります。手入れはこれで十分です。
やってはいけないことはテーブルなら熱い器などを直接置かないこと。輪じみの原因になります。また水滴のついたグラスを長時間おくとこれも和染みの原因となります。その他も汁物をこぼすなどはすぐふきとれば大丈夫ですし、多少しみがのこってもペーパーをあててオイルを塗ってあげるともとにもどります。
 

 

 

秋月酒店ワークテーブル
オーベルジュ土佐山 サイドボード
 人が作業しやすいように黄瀬さんの注文家具は設計され、作成されています。
 
* 注文家具の写真は黄瀬隆行さんに提供いただきました。