田舎と都市を繋ぐIT戦略は?
今週のゲストは高知工科大学工学部(フロンティア工学コース)大学院生の石井勇太さんです。今日のテーマは「田舎と都市を繋ぐIT戦略は?」でお話しをお聞きします。
 現在でも農業の人たちは、インターネットを活用して農産物を販売し、成果を挙げられているようにも聞いています。個人的に突出されている人はいるのでしょうが、全体としてはどうなのでしょうか?
安全な農産物をほしいという都市部の人達の要求は強いと思います。それを実現するのにはIT面でサポートされるとすれば、どのような方策があると思われますか?
そうですね。農作物を都市部の人たちに届けるということで、IT技術が出来ることは、生産管理とか、物流の最適化、マーケチングやプロモーションでモ沢山あります。世界に配信できますので。
 表現力が豊かであればとても力強い道具となりますね。

8月末に『四国の明日を語ろう会』という四国4県が共同で行っている青少年の交流事業に参加してきました。そのプログラムの中で愛媛県内子町の道の駅『KaRaRi』を訪問見学しました。そこでは町内の農作物だけをこだわって売っているのですが、コンピュータで農薬管理はもちろんの事、「あなたの出荷した野菜は午前中に何個売れました」という情報まで生産者と、携帯電話のメール機能を用いて共有していました。購入した人も、道の駅内に設置してあるコンピュータで、農薬情報を引き出すこともできます。


 そういったサービスを実現するには、データの入力が必要となってくるのですが、驚いたことにそれらの作業も生産者の方々が行われているそうです。
 もちろん若い農家の方もいますが、その多くは高知県と同じようにITとはあまり縁の無い高齢者の方々です。道の駅の管理者の方が、情報リテラシを一からみんなで学び、根気よくデータ入力操作を教えたそうです。


 これはITをうまく活用できた例で、お陰で消費者は安心して野菜を購入でき、生産者は効率的に出荷、そして導入以前より多くの収入を得ることもできました。もちろん、IT以前に農家の方々が一生懸命消費者のニーズを探り、必要だと考えて情報リテラシを学んだ事が基盤となっています。
 この例から学べる事は「関係者全員がIT導入・活用により、利益を得ることができるという認識が共有されている」という事が重要だということです。技術は人の活動を活かすためにあります。無理強いしても意味が無いと思います。

石井勇太さん
沖縄県の沖縄県物産公社わしたショップは、田舎の生産者と都市部の消費者をリンクさせ大成功しています。高知県はアンテナショップは今ひとつです。その理由はどこにあると思われますか?
 高知県のアンテナショップには、深く関わった事が無いので具体的な事をいう事はできません。しかしホームページが外部委託され、とても見やすく使いやすくなったので、これからが期待できると思います。
 ただ実際に東京のあるアンテナショップに行って、店主さんにお話をお聞きしたことがあります。そのお店だけかもしれませんが、商品の多くは委託販売なので、高知からの入荷は農家任せで、首都圏の方々が望む商品があまり無いと聞きました。 つまり「高知にしか無い商品」が東京まで届かないという事です。普通の野菜は首都圏近くの生産地の方が新鮮だし、輸送費も掛からないので価格も安いということです。
 店主さんは、徳谷トマトという高知県のブランドトマトを例に挙げて話してくださりました。このトマトは高知でも人気なので東京にはほとんど入荷しない。このトマト自体もそうですが、これをジュースがあれば絶対売れる。何で作らないのだろうと仰っていました。高知で消費できるものでも、PRのためにもあえて東京に出荷する。そういった視点やチャレンジが必要だと思います。
 まとめると、生産者と消費者がリンクしていないというのもそうですが、生産者と店舗側がリンクしていない事に大きな問題があると思います。
東京・銀座わしたショップ
高知県アンテナショップ(東京・吉祥寺)
都市部で、高知県の「ファンクラブ」などになっていただくようなキャンペーンをしたいのですが、どのような方法があるのでしょうか?アイデアはありませんか?

 『ファンクラブ』的なものを作るのであれば、馬路村の例がとても参考になると思います。例えば先日馬路村農協から『村民大運動会』のお知らせが届きました。一度ごっくん馬路村を購入しただけですが、季節ごとに同じように田舎を感じさせるイラストや文章で、村の様子やイベントが届きます。商品を購入すると料金別納ハガキが入っていて、なんと『村長』へ意見や感想を送る事ができます。


 このような仕掛けによって、都市部でも馬路村を感じる事ができるし、機会をわざわざ作ってでも村に来たくなる。ごっくん馬路村等の村の特産品を購入する人が、村に何を求めているのかをよく掴んだプロモーションだと思います。


 もちろんその裏には、馬路村農業協同組合の方々の何十年もの努力と苦労、都市部だけでなく顧客全員との真摯な対話があります。高知県のファンクラブを作るのであれば、そうした何十年も耐えうる人材・組織や仕組みを作る事が大切でしょう。

 

(沖縄わしたショップの住民登録申し込み用紙)

   
田舎には話題や、言い伝えなど「コンテンツ」は豊富にあると思います。ただそれをメデイァに乗せ、都市部の人たちに関心が向くように「加工し」、情報を発信する技術も基盤も乏しいと思います。石井さんならなにから始
 まず自分で実践し、情報を発信する事が有益だとたくさんの人に伝えることですね。それに共感した人に、その手法を学んでもらう事だと思います。前にも述べましたが、自分のやっている事が何の役に立つのか?が分からないと目標を持てません。目標が無くてはやる気を持続することができません。
 実例といいますか。高知は自然が豊かだとか、食べ物が美味しいとか。人情が豊かとか。しかし都市部の人たちは知らないし、関心もありません。
 自分達の自慢話をITに載せて伝達を上手く出来ないと言うのはもどかしい限りですね。
 馬路村の場合は成功していますね。独自色を出していますね。ここしかない。馬路村しかないものとか。それはIT部門ではなしに地道な労力をかけていますね。
 
 馬路は町村合併も、農協の合併もしませんでした。小さな単位でゆずだとか、エコアス馬路村などで独自色を出しがんばっていますよね。四万十のほうでも個別には何箇所か個別には成功したところもあります。
 高知県全体でいえば、都会に人が高知を見てどうなのかと言いますと、「特色がない」ように言われてしまいますが。
高知県を売り出す試みはされているでしょう。でも高知県が頑張っている裏には、全国の県も同じようにがんばっています。高知県に似た県の宮崎県も同じようにIT技術を活用して頑張っています。都市部により近い県でも同じです。
 そうした試みの中で、高知県が出来ることはと言いますと「高知県にしか出来ないこと」「高知県にしかないもの」を見つけることです。同じ土俵で戦いましても、勝てないとは言いませんが、独自なものに目を向けて売り出し

 メデイァは一つの「道具」です。ITもそうです。石井さんもいろんな高知県の地域に行かれています。これであれば「全国に売れる」というものはありませんか?知られてはいないが気付かれたことはありませんか?
 僕個人の考えですが、高知には沢山産物があります。「ごっくん馬路村」のようにヒット商品もなかにはあります。ただ産品をずらっと並べタリ、探していくことだけではなく、トータルで見た高知を一つのブランドを確立して全体を売り出すことが必要です。
 
わしたショップ銀座店には多種多様な沖縄産品が並べられています。”沖縄ブランド”が確立されています。
 高知県のブランドと言いましても?だと思います。石井さんは広島出身ですが、広島にいた時に高知に対してはどのようなイメージがありましたか?

 実は高知に来たのは、大学が決まりアパートを探しに来たのが初めてでした。オープンキャンパスにも来ていませんでしたし。高知のことはほとんど知りませんでしたね。
 高知の特色を売り出す話ですが。 田舎には話題や、言い伝えなど「コンテンツ」は豊富にあると思います。ただそれをメデイァに乗せ、都市部の人たちに関心が向くように「加工し」、情報を発信する技術も基盤も乏しいと思います。石井さんならなにから始めますか?

 僕は万人が高知県が好きになるとは思えないと思います。僕自身も高知「工科大以外に北海道の大学も受験していました。そちらへ行っていれば「北海道は良いよね」と今のような活動をしていたと思います。高知へ来たのもなにかの運命であると思います。
 始めはこれは「なんじゃこれは」と思いましが、文化に触れ、伝統に触れますと、自然に触れたりしますと高知はいいなと思うようになりました。そんな経験から高知県を売り出すことになると思います。
 万人向けに売り出すのではなく、「特定の人」に「これは良いよね」と言っていただくようなブランジングしていくことが大事であると思いますね。
 
 今の石井さんのようなことを言われている人はいませんでしたね。万人受けするような千客万来の形のプロモーションとか観光キャンペーンはありました。
この人は来ていただいても良いが、この人は来なくてもよいと言うか・・
 来なくても良いとは言いませんが、全国47都道府県のなかで主張するのは「高知県が良いな」と言う人たちに集まっていただきことが大事です。
 そのなかから必要な人材を補給をしていくことが大事です。そういうことでもっと高知県を愛してくれる人が増えるPRが必要ですね。高知県これはいかんよねという人には、その人にあっている地域があると思います。全国北海道から沖縄までありますので・・。

 そのなかで高知県には「人情が厚い」「こうした文化がある」「自然がたくさんある」「こうした人がいる」。これが高知県だよと見せて、会っていた人が来ていただく。これから必要になるのではないかと思います。

ヤングベンチャーコンテトに応募して佳作をいただました。純粋にエンジニアになることだけを考えていましたが、自分の情報システム工学を活かして、地域づくりに活かしたいと大学院では思うようになりました」とも。地域のためにないができるかを一番に考えています。
 2011年からデジタル放送にテレビはなります。100チャンネル時代になるといわれています。高知県が1つのチャンネルをまるごと買取り、「朝から晩まで夜中まで高知」という番組を放送すれば良いのではないかと思います。実現性はあるのでしょうか?
 簡単に言えば、NHKが取り組んでいる『今日はとことん○○県』を毎日行うという事でしょうか。これも考えたことのないアイデアなので詳しいことは言えませんが、費用対効果を考えれば難しいと思います。
 ただ資金的には民放が関わらずに高知県だけが観光等の振興費と割り切って、資金を提供するのであれば、大いにあり得る事だと思います。簡単に言えば、24時間を市町村数で割って、振り分けていけばいいと思うので。ただ、民放と放送内容が重複したり、影響がでるかもしれませんね。
 違う発想をすれば、民放・NHKが持っている映像資産を解放する場にしてみるとおもしろいと思います。毎日のように配信されている地域情報は、一度放送するとその後ほとんど見ることができません。数十年前の映像はニュースとしては価値がありませんが、資料や思い出としてはとても価値ある物です。それを活かすチャンネルというのはどうでしょうか。