高知の地域社会から見えてくるもの
 今週のゲストは高知大学人文学部助教授の蕭紅燕(ショウコウエン)さんです。今日のテーマは「高知の地域社会から見えてくるもの」でお話をお聞きします。
 蕭紅燕さんは中国の北京市出身。北京大学を卒業され、東京大学大学院、東洋大学大学院を卒業され、1997年高知大学へ来られました。ご専門は社会人類学、民俗学、地域社会学です。
高知の山村に入られ調査研究をされています。東京などの都市部と、高知の山村はどういう点で異なっているのでしょうか?興味をひかれたところはありますか?
 実は高知に来まして一番惹かれているのは「高知は宝物の宝庫である。」ということです。
 非常に興味深い地域ですね。ある意味では近代化が他の地域より遅れていますが、その反面、いろんな民俗文化が残っています。非常にに面白く、惹かれるところはたくさんあります。
蕭さんは「様々な社会問題の背景を考えると、長年綿々と続いてきた農村社会の烙印が実に深くおされていることは紛れもない事実であろう。」と言われています。ふだんは私などは気がつきません。どのような場面で現れるのでしょうか?
 例えば人間関係ですね。日本社会の人間関係は40年前に東京大学の中根千枝先生が言われたように「たて社会の関係」です。今の日本でも会社社会でも縦社会が機能していますね。
 その土台は昔の「本家・分家」関係、「親方、子方」の関係ですね。横の繋がりもありますけれども。縦の関係をより重要視するのは日本の特色といわれています。農耕社会の名残ではないでしょうか。
蕭紅燕(ショウコウエン)さん
 蕭さんは土佐地域研究会を主催され、多彩なゲストを招聘して講座を開催されています。学生達の反応はいかがでしょうか?また大学の「構造変化」で講座の継続は大丈夫なのでしょうか?

 実は土佐地域文化研究会は、1999年に始めました。土佐に来たのはその2年前ですけれども。当初は東京に比べ何もなかったですね。研究会のようなものが。
 「石の上にも3年」といいますが、それで自分でこしらえてみようということになりました。1回目の時はさすがに誰も知りませんでしたので、うちのゼミ生を引っ張ってきまして、授業の一環だということで最初は皆戸惑っていましたけれども、反応は良かったです。
 6年間続いて、50回近くやりました。これも大学とは関係なく、土曜、日曜に開催しています。

 講師の方々はみな手弁当です。そして昨年の秋からいの町成山「七色の里」で、月1回開催するようになり、参加者もほとんど社会人です。

 かなり多彩なゲストの皆さんですね。「食」に関する人。「酒」に関する人など。「農業」の人とか、「地域文化に詳しい人」とか。高知には「人材」はかなりいらっしゃいますね。

土佐山田町旧道沿いにある松尾酒造(1998年 当時)

 

 写真は蕭紅燕(ショウコウエン)さんに提供いただきました。

 人材をたくさん輩出することは、中国では「藏龍臥虎」(どこに龍や虎がいるかもわからない)という表現があります。私もその感ありです。わたしが感じているのは「千里馬」(千里を走れる馬)はおそらくどの時代にもたくさんいることです。
 そうした人材が地元にいるにもかかわらず、いざ講演会をするとなると中央から「有名」人を呼びたがります。でもそういう人は盛りを過ぎて、ちっとも面白くないんです。むしろ「成長途上」の人の方がずっと面白いと思います。ただ残念ながら「伯楽」はそう多くはないですね。
 高知県の人口は80万人を割り込みました。今後の予想では20年後には70万人になり、その60%が物部川と仁淀川の間の高知県中央部に住むと言われています。中山間部の過疎高齢化はより進行すると予想されています。地域の現状と、対策はあるのでしょうか?
朝峯神社の秋祭り
一夜酒
 

 村の人たち、とりわけ山間部の人は現金収入が少ないので、若い人たちは都市へ出て行くのは仕方がない。ところが山には木があり、たくさんの資源があることは忘れてはなりません。
 実は私の夫も今、山間部の会社で働いています。たしかに収入が少ないですが、山師達には心意気があるしみんなしっかりと物事を観る目は持っていますよ。

 山間部の過疎高齢化ですが、いま田舎へIターン、Uターン、Jターンをめざす人が少なくありません。村から出て行く人を止めるわけにはいけませんが、その代り、やる気のある「都会人」をもっと積極的に受け入れてもよいのではないでしょうか。

 私も数年前から高知大学から通える範囲で家を探してきました。
 木造の家で、昔の農家の家を探しています。良さそうな空き家がかなりあります。でもなかなか貸してくれません。それはしょっちゅうです。村の人の気持ちはわかりますよ。
 どこの家でも「思いが一杯詰っている」ようです。だけど街の人が村に住んで勉強したいというのであれば、本当は村の人は寛容になって彼らを受け入れてもいいのにと想います。
 一方街の人ももう少し謙虚になって、「村人に学ぶ」という姿勢を忘れてはなりません。そうすればうまくいくかもしれません。契約書をかわしてもいいし、とにかく打開策はいくらでもあります。

鏡村老人会を訪ねて。しめ縄のつくり方を教った。
鏡村で催された「女の祭り」
 
 蕭さんは高知県の地域社会を観察されています。特に「気に入っている」ものはありますか?おかまいない範囲でご紹介下さい。
 これは難しいですね。ま、いうたら土佐は「酒の国」と言われています。何年か前に読んだ新聞の記事に、「?儻不覊(てきとうふき)」という言葉がお気にいりです。かつての土佐人を形容した言葉です。些細な事には拘らない。大胆、かつ慎重に事を運ぶ。筋が通らなければ中央には曲げない。
 権威者には媚びないところが気骨があっていいですね。

 蕭さんは中国のご出身。高知の地域社会と中国の社会で共通点はなにかありますか?
 また気になることなどはありますか?そこから日本人の精神構造が何か見えますか?

 これも難しいですね。高知に来る前に、東京世田谷に10年住んでいました。気になった点は歴史ですね。郷土の歴史にとりわけ興味を持つようになったのは高知へ来てからです。土佐史家広谷喜十郎先生に負うところが大です。
 実は中国の歴史に関心を持ったのも高知へ来てからです。中日関係もさることながら、今日のさまざまな出来事をよりよく理解するためには、どうしても近代までに遡る必要があります。

 日本の場合、明治維新以降のことをふりかえる必要があります。また日本の近代化を理解するには、藩政期のことも勉強しなければならないでしょう。それ以前の中世のこともね。

 「温故知新」(故きを温めて、新しきを知る)ということは、そういうことですね。歴史は決して過去のものではない。現在を強く規制しているし、また歴史から学ぶことが多いのです。
檮原町千枚田」での田植え風景。
棚田で汗を流します。